「藁の上の養子」という言葉をご存じでしょうか。
生まれて間もない他人の子を自分の子として戸籍上の届出をすることです。
藁の上に産んだ赤ん坊を他人が持ち去るというような意味なのでしょうか?「藁の上の」という表現が何とも古くさい印象ですね。
子どもを育てきれないとか、非嫡出子であることを隠すためであるとか、養子縁組ではなく実子として届けでるためであるとか、様々な事情から、このようなことが行われてきました。
裁判所は、このような虚偽の届出は無効であり、実子としての効果も養子としての効果も認められないと判断してきました。
実子として認められなくとも、せめて養子として認められてもよさそうなものですが、裁判所は形式面を重んじて、これを認めてきませんでした。
ちなみに、無効な行為でも、それに類似する効果を認めることを無効行為の転換といいます。藁の上の養子については、無効行為の転換も認められません。
しかし、もし、長年、実子として育てられ、生活してきたのに、突然、親子関係が否定されてしまっては、子の保護に著しく欠ける場合が生じます。そこで、学者の間では、その不都合を救済するため、親子関係不存在確認請求を権利濫用とすべき場合があるのではないかと主張されてきました。
平成18年7月7日最高裁第二小法廷判決において、親子関係不存在確認請求訴訟が権利濫用になる場合があり得ることが判示されました。
同判例の事例を簡単に紹介致します。
戸籍上AB夫婦の嫡出子としてYが記載されている場合に、同夫婦の長女XがYとAB夫婦の親子関係不存在確認請求訴訟を提起しました。Yは別のFG夫婦の子だったのですが、FG夫婦がYをAB夫婦の子として育てられることを懇請し、AB夫婦の子として届けられたのです。その後、AB夫婦が死亡し、続いてAB夫婦の二女Cが死亡し、Cの相続が問題となりました。Xは、Yが相続するのを妨げる目的もあり、YとAB夫婦の親子関係を否定しようとしたのです。
原審は、Xの請求が権利の濫用に当たらないと判示しました。
これに対し、最高裁は、「①AB夫婦とYとの間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ、②判決をもって実親子関係の不存在を確定することによりY及びその関係者の被る精神的苦痛、経済的不利益、③改めて養子縁組の届出をすることによりYがAB夫婦の嫡出子としての身分を取得する可能性の有無、④Xが実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機、目的、⑤実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合にX以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには、当該確認請求は権利の濫用に当たり許されないものというべきである」と判示し、親子関係不存在確認訴訟が権利濫用になる場合があり得ることを認めました。
子どもは、自分が、実子として生まれてくるか、養子として生まれてくるか、あるいは、藁の上の養子なのか、選ぶことはできません。子の保護の観点からも、上記判例は意義のあるものといえるでしょう。
2020年9月28日
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