こども家庭庁「全国ひとり親世帯等調査」(令和3年度調査)によれば、母子世帯のうち養育費を「現在も受けている」と回答した割合は28.1%にとどまり、養育費の不払いは今も多くのご家庭が直面している問題です。養育費が振り込まれなくなったとき、どのような対応ができるかは、養育費についてどのような取決めをしているかによって異なります。今回は、取決めの状況ごとの対応方法と、2026年の民法改正による変更点を、名古屋の弁護士が解説します。
養育費が振り込まれなくなったとき、まず確認すべきは、養育費についてどのような形で取決めをしているかです。大きく分けると、次の4つのパターンがあります。
① そもそも養育費の取決めをしていない場合
② 公正証書によらない私的な書面(離婚協議書等)で養育費を取り決めた場合
③ 公正証書(強制執行認諾文言付き)を作成した場合
④ 調停・審判・離婚訴訟の判決等、裁判所の手続で養育費を取り決めた場合
このうち③・④は、法的に強制執行ができる「債務名義」がある場合にあたります。②には債務名義がありませんが、2026年4月1日施行の改正法により、後述する「先取特権」に基づく担保権実行という別のルートが利用できる場合があります。
取決めをしないまま離婚した場合でも、養育費を請求すること自体は可能です。父母の協議で合意できればそれに越したことはありませんが、話合いが難しい場合は、家庭裁判所に養育費の分担を求める調停を申し立てることができます。
なお、2026年4月1日以降に離婚したケースでは、取決めをしていなくても一定額の養育費を請求できる「法定養育費」の制度が新設されています。詳しくは、法定養育費とは(コラム123)をご覧ください。
口約束ではなく、離婚協議書のような書面で養育費を取り決めていた場合、公正証書になっていなくても、通常の強制執行(債務名義に基づく差押え)はできません。もっとも、2026年4月1日施行の改正法により、養育費(子の監護に要する費用)には「先取特権」という優先的な権利が認められるようになりました。父母間の協議によって養育費を取り決めた場合も、この先取特権の対象に含まれます。
先取特権に基づく担保権実行では、通常の強制執行のような債務名義は不要で、「担保権を証する文書」を提出すれば差押えが可能です。裁判所の運用では、この「担保権を証する文書」として、家事調停調書、家事審判書、公正証書、判決書・和解調書のほか、父母間の合意書面(私的な離婚協議書等)も認められています。つまり、公正証書になっていない私的な合意書面であっても、先取特権に基づく担保権実行を利用できる可能性があります。
ただし、先取特権が及ぶ範囲は、子1人あたり月額8万円が上限です。取り決めた養育費の額がこれを超える場合、その全額を請求するには、通常どおり債務名義に基づく強制執行が必要になります。相手が担保権実行を争ってくる場合や、より確実に将来分も含めて回収したい場合には、あらためて家庭裁判所に養育費の分担を求める調停を申し立て、調停調書等の債務名義を得ることも選択肢になります。
強制執行認諾文言付きの公正証書を作成していた場合は、裁判所の手続を経ずに、いきなり強制執行を申し立てることができます。
相手の給与や預貯金などの財産を差し押さえる方法があります。養育費は将来分も一定範囲でまとめて差し押さえの対象にできる点が、他の債権にはない特徴です。
なお、公正証書のみを作成していた場合、後述する「履行勧告」や「履行命令」は利用できません。これらは家庭裁判所の調停・審判・人事訴訟の手続で取り決めた場合に限られる制度です。
調停調書、審判書、離婚訴訟の判決書等がある場合は、③と同様に強制執行を申し立てることができるほか、次のような制度も利用できます。
・履行勧告:家庭裁判所が、養育費の支払状況を調査した上で、相手に支払うよう勧告する制度です。申立てに費用はかかりませんが、強制力はなく、勧告に応じない相手に履行を強制することはできません。
・履行命令:家庭裁判所が相手に支払を命じる制度です。正当な理由なく命令に従わない場合は、10万円以下の過料に処せられることがあります。
・強制執行(直接強制・間接強制):③と同様に利用できます。
強制執行をしようとしても、相手の預金口座や勤務先が分からなければ差押えができません。この場合、地方裁判所に財産開示手続を申し立てることができます。あわせて、金融機関や登記所、市町村・日本年金機構等の第三者から、預貯金や不動産、給与に関する情報の提供を受ける手続(第三者からの情報取得手続)も整備されています。養育費等については、財産開示の申立てと同時に、判明した債権への差押命令の申立てをしたものとみなす「ワンストップ執行手続」も利用できます。
①のように取決めをしないまま離婚した場合に発生し得る「法定養育費」も、②~④の取決めに基づく養育費(実務上「形成養育費」と呼ばれます)も、いずれも先取特権の対象となり、上限額は子1人あたり月額8万円で共通しています。もっとも、先取特権に基づく担保権実行の際に提出する「担保権を証する文書」の内容は異なります。形成養育費の場合は、家事調停調書、公正証書、父母間の合意書面などを提出しますが、法定養育費の場合はそもそも取決めの文書自体が存在しないため、離婚の事実や、請求者が離婚のときから引き続きその子を主に監護していることを証明する戸籍謄本・住民票などの資料を提出することになります。法定養育費の制度の詳細については、法定養育費とは(コラム123)で解説していますので、あわせてご覧ください。
まずは、養育費についてどのような形で取決めをしていたかを確認してください。公正証書や調停調書等の債務名義がある場合はすぐに強制執行を検討できますが、そうでない場合は、まず家庭裁判所への調停申立て等を検討することになります。
養育費の不払いへの対応方法は、取決めの内容によって大きく異なります。放置していると、時間が経つほど相手の財産や勤務先の把握が難しくなることもあります。養育費が振り込まれなくなってお困りの方は、お一人で悩まず、お早めに当事務所までご相談ください。
令和8年10月2日
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