面会交流の調停の運営について、禁止・制限すべき事由が認められない限り、または、特段の事情が認められない限り、必ず面会交流をしなければならいという、いわゆる「原則実施論」なる運営方法が流行したことがありました。
私が妻側から依頼を受けた案件でも、調停委員から、「DVはあるのか、ないのなら面会を実施してください」というような、極めて単純な論法で、面会を推し進めようとされた経験があります。妻は、夫から婚姻費用の支払いを受けられず困窮しているにもかかわらず、婚姻費用の協議を後回しにされた上、調停委員から、まずは面会をしてください、などと言われ、困惑していました。
当事者のおかれた具体的背景について聴取することなく、DVがないのなら、さぁ面会してくださいと言われたものですから、かなり面食らったものです。しかも、子どもの専門家である調査官までもが、一緒になって、まずは面会してくださいなどと言いました。
もちろん、調停の進行方法について強力に抗議した上で、まずは当事者のおかれた具体的な状況を理解するように促していきました。そして、面会を実施するとしても、子らの心情に配慮した適切な面会方法を検討するように促していきました。
このような悪しき「原則実施論」が流行した背景には、かつて裁判官や調査官が執筆した「面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り方-民法766条の改正を踏まえて-」(細矢郁ほか家月64巻7号)の影響があるようです。
同論考において前提としていた面会交流調停の運営は、面会交流を実施することにより子の福祉に反する事情があるか否かを聴取しながら、そのような事情がない場合は、当該事案に即して適切な面会交流の実施に向けて調整を進めるというものだったようです。
しかし、実際には、調停開始当初から、面会交流を実施することを前提に、前記事情が認められない限り必ず面会を実施しなければならないかのような運営がなされることがありました。筆者が接した前記実例もそのような悪しき調停運営の一例です。
最近では、多くの批判が寄せられたからか、筆者が知る限り、そのような極端な例は見られなくなりました。家裁でも、調停委員や調査官に対し、事件の実情を詳細に聴取するように指導がされているのかもしれません。
いきなり面会を求めるのではなく、調停の序盤で調査官が当事者双方の面談をした上で、子どもの意向、心情調査を行い、その後に、試行的面会交流を行うという例も増えています。
このような反省を受けて、裁判官及び調査官で構成される面会交流プロジェクトチームが面会交流の新たな運営モデルを提案しています(「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」家庭の法と裁判No26)。
同提案では、(1)主張、背景事情を把握、(2)課題の把握、当事者との共有、(3)課題の解決に向けた働きかけ、(4)働きかけ、調整の結果の分析、評価等という流れを基本的なステップとしています。そして、当事者双方から子どもについての一切の事情を聴取し、これらを適切に考慮していく上で、①安全、②子の状況、③親の状況、④親子関係、⑤親同士の関係、⑥環境、の6つのカテゴリーについて特に重視すべきとされています。
趣旨としては評価できるものですが、実際の調停運営の現場でこれが実践できるかどうかが肝要です。
筆者としても、面会交流に携わる機会が多くありますので、今後も、裁判所の運営を注視していきたいと思います。
2020年7月8日
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