離婚のご相談をお受けしていると,配偶者が,別居の合意なく家を出て行くというケースが多くあります。
そして,このような合意のない別居は,「悪意の遺棄」にあたるのではないかと思われる方もいらっしゃいます。
「悪意の遺棄」とは,裁判で離婚が認められる理由のひとつです(民法770条1項2号)。
婚姻関係にある夫婦は,同居・協力・扶助する義務があります(民法752条)。このような義務を,正当な理由がなく怠ることを「悪意の遺棄」と言います。
別居をしたからといって,直ちに悪意の遺棄に該当するわけではありません。
裁判で離婚が認められる理由は,配偶者が不貞行為をしたことや,配偶者の生死が3年間不明であること等,重大な事情です。「悪意の遺棄」についても,同じように,離婚を請求されている側の意思に反してでも離婚を成立させるべきと言える理由である必要があります。
別居が「悪意の遺棄」と言えるかは,別居に至る経緯,別居した目的,別居に同意していない側の生活状況,別居の期間等を総合的に考慮して,別居に正当な理由があるかどうかで判断されます。
裁判例では,破綻状態にある夫婦が別居する場合や,一方が同居を拒否して翻意する可能性がないような場合は,別居をしても同居義務に違反していることにならないと判断されており,このような場合,当然,「悪意の遺棄」とは言えません。
実際に,「悪意の遺棄」による離婚が認められたケースをいくつかご紹介します。
・夫が不貞行為を行ったため,妻が夫の改悛を促すために姉の家に逃避した ところ,夫が行き先を告げずに家出し,2年以上,妻に連絡や生活費の仕送 りをしなかったケースにおいて,夫の行為は悪意の遺棄に当るとして,妻か らの離婚請求を認めました(大阪地裁昭和26年6月5日判決)。
・妻が,精神病にかかった夫のもとから去り,同居の努力をせず,10年以上が経過したケースにおいて,夫からの離婚請求を認めました(岐阜地裁昭和31年10月18日判決)。
・約6年に渡り性交渉がなく,離婚の話し合いがされていた中,夫が妻から手切金を受領して自宅から去り,妻及び子の生活費の支払いをせずに1年程別居したケースにおいて,妻からの離婚請求を認めました(浦和地裁昭和59年12月3日判決)。
・夫が,約30年間婚姻生活を続けた半身不随の妻を置き去りにして別居し,5年程,生活費を送金せずに別居していたケースにおいて,妻からの離婚請求を認めました(浦和地裁昭和60年11月29日判決)。
・夫が職を得るために上京することを決意し,妻に出発予定や行き先を告げず,3人の幼児を抱えて生活することになる妻と,生活方針について相談することもなく,独断で上京した事実について,悪意の遺棄に当ると判断し,妻からの離婚請求を認めました。このケースでは,妻から夫に対する慰謝料請求も認めています(浦和地裁昭和60年11月29日判決)。
・夫が生活費を得るために渡米し,妻に対して同居を要求したが,妻は日本から離れることを拒否し,他の男性と関係をもっていた事例において,妻の行為は不貞行為及び悪意の遺棄にあたるとして,夫からの離婚請求を認めました(東京家裁八王子支部昭和61年9月10日審判)。
・妻が,夫に対し,運転免許取得費,自動車購入費等,多額の援助をしてきたにも関わらず,夫が妻と生まれたばかりの子を置いて家を去り,夫から関係修復を図ることなく,かえって離婚の調停を申し立て,調停で取り決めた生活費の支払いを怠るなどして30年程別居を継続した事例において,妻からの離婚請求及び慰謝料300万円の請求を認めました(東京地裁平成21年4月27日判決)。
平成28年5月27日
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