モラハラの主張をする際、夫が暴言を吐いているところをICレコーダーで録音した音声が、証拠として提出されることがあります。
一般的に、暴言の立証はむつかしく、録音の他、日記に詳細にセリフや場面を記録しておいたり、メールやLINEに事実関係が記載されていたりする等、証明する方法が限られています。
そのため、ICレコーダーで録音レコーダーを設置しておくという方法も理に適っているといえます。
しかし、他人間において、自宅のようなプライベートな場所でくつろいでいる様子を無断で録音すれば、不法行為として損害賠償請求される可能性があります。そして、夫婦間においても、すでに別居しており破綻しているような場合は、他人と同様に、盗聴行為が違法となる可能性があります。
そのため、せっかく良い証拠が取れたのに、後から違法と主張されないように、録音する際には慎重にする必要があります。
夫婦間においても、一方当事者が自宅に1人でいるときに電源を入れたICレコーダーを置くことが、婚姻関係の基礎となる信頼関係を傷付ける違法行為であると判断された判例があります(東京地裁平成25年9月10日)。
この事例は、夫が妻に対し暴言を吐いたり、飲酒して酒乱状態となって妻に暴力を振るうことがあったことから、妻が録音を試みたものです。妻側としては、破綻の原因が夫の暴言や暴力にあると考えているわけですから、証拠を確保するために録音をするという判断もあり得るように思います。そこで、録音行為について違法性が阻却されると主張しました。
しかし、裁判所は、録音行為の時点では、夫婦の信頼関係が低下していたものの破綻には至っておらず、むしろ、妻による録音行為により、信頼関係の喪失を決定付けたとして、違法性を認めました。
もっとも、夫が勝手に会社を退職したり、株で大損したり、怒りっぽくなったことも破綻の一因となっているとして、妻の録音行為の破綻への寄与度は必ずしも大きくない判断し、慰謝料としては比較的定額の50万円が認容されました。
夫婦間でいろいろあったのでしょうけど、録音行為の発覚が決定打となってしまったということなのでしょう。妻側が暴言の録音に成功していれば、逆の結論になったかもしれず、ちょっと妻側にかわいそうな判決であるように思います。
なお、弁護士向けの研修で、裁判官が、録音の証拠としての価値は、さほど高くはないと考えているという話を聞いたことがあります。これは、暴言や暴力は突発的なものなのに、予め録音しておくというのはおかしいのではないか、録音しているのをいいことに、暴言を誘発しているのではないか、という考えが働くからだそうです。
相手方の暴言について録音を試みる場合には、本当に録音が必要なのか、逆に録音したことが不利な事情とならないか、弁護士に相談されることをお勧めします。
令和元年6月4日
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