離婚時に取り決める財産分与は、夫婦が協力して築き上げた財産を公平に分けることが原則ですが、「別居中に生活費を十分に支払ってもらえなかった」「過去の未払い分を離婚時に清算したい」と考える方も少なくありません。
今回は、財産分与において、過去の未払い婚姻費用(生活費)の清算がどの程度認められるのか、法的な観点から解説します。
「財産分与」は、民法第768条3項で「その他一切の事情」を考慮して金額を定めることができるとされています。この「その他一切の事情」には、過去の婚姻費用(生活費)の未払い分も含まれると考えられています。
実際に、最高裁判所の判決でも、「裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができる」と示されており、財産分与の中で未払い婚姻費用を清算できると判断しています。
財産分与の中で清算できる「未払い婚姻費用」とは、原則として、別居後に支払われていない婚姻費用のうち、調停などで支払いが確定していないものを指します 。
既に調停などで支払いが確定している婚姻費用が未払いの場合、財産分与で重ねて考慮することはできません。その場合は、調停等に基づいて強制執行などの手続きを行う必要があります 。
また、財産分与の中で未払い婚姻費用の清算を求める場合、相手に「婚姻費用を請求したこと」は要件とされていません 。しかし、単に支払いがなかったというだけでは認められず、「標準的な婚姻費用」と比べて明らかに低い金額しか支払われなかったことを主張し、立証する必要がある点には注意が必要です 。
特に、あまりに古い時期の支払い状況を立証することは難しい場合が多いのが実情です 。
では、実際に過去の未払い婚姻費用として認められる金額はどのくらいなのでしょうか。
過去の収入資料などから「標準的な婚姻費用」を試算し、実際に支払われた金額との差額が明らかになったとしても、その差額の全額が清算として認められるわけではありません 。
一般的には、差額の半分程度を財産分与の金額に加算して清算することが多いようです。
なぜ全額が認められないのか。その理由としては、以下のような点が挙げられます。
・婚姻費用を請求する調停などの手続きをしようと思えばできたのに、それをしなかったことから、実際には生活費に困窮していなかったことが推測されること 。
・婚姻費用の請求をしないまま放置していると、相手が知らないうちに多額の債務を負うことになってしまうのを避けるという公平の観点 。
ただし、相手に十分な資産や収入がある場合には、未払い婚姻費用の全額を財産分与に加算しても良いという指摘もあります 。
逆に、婚姻費用を支払う側の配偶者(義務者)から、「これまで支払ってきた婚姻費用が標準的な金額と比べて過大だったため、その分を財産分与で清算すべきだ」と主張されるケースもあります。
しかし、このような主張は認められません。
夫婦が円満だった間に任意で支払われた婚姻費用は、たとえ標準的な金額よりも多かったとしても、受け取った側に返還する義務はないと考えられているからです 。
財産分与の中で未払い婚姻費用を清算できるとしても、夫婦の協力で築いた財産(分与対象財産)が存在することを前提としています 。そのため、分与対象財産が全くない場合、「未払い婚姻費用の清算だけを目的」とした財産分与の申し立ては認められません 。
繰り返しになりますが、過去の未払い分を清算するためには、「標準的な婚姻費用と比べて、明らかに低い金額しか支払われなかったこと」を主張・立証する必要があります 。この立証は、過去の入出金記録や双方の収入資料が必要となり、非常に手間がかかります。
財産分与の中で過去の未払い婚姻費用を清算することは可能ですが、認められる金額は限定的であり、立証も容易ではありません 。
もし、別居後に十分な生活費を受け取れていないと感じた場合、後回しにせず、面倒でも速やかに婚姻費用分担調停や審判を申し立てることが賢明です 。そうすることで、離婚前の段階で、法的に確定した金額の支払いを求めることができるようになります。
財産分与や婚姻費用に関する問題は、個々のケースによって状況が大きく異なります。ご自身の状況でどのような手続きを取るべきか、よくわからない場合、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
2025年9月16日
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