令和6年の民法改正において導入された最も注目すべき新制度のひとつが「法定養育費」です。今回は、制度の内容・効果・先取特権・実務上の留意点について詳しくご説明します。
1 法定養育費が創設された背景
従来、離婚後の養育費については、父母が協議で定めるか、協議が調わない場合は家庭裁判所の調停・審判で定めることとされていました。しかし、協議離婚の場合に養育費の取決めをしないまま離婚するケースが多く、その結果として養育費が支払われないという問題が深刻化していました。
この問題を解消するために、改正法では父母が協議上の離婚をした場合に、養育費の分担についての取決めをすることなく離婚したときには、離婚の時から当然に最低限度の養育費(「法定養育費」)が発生する制度が創設されました。
2 法定養育費の性質
法定養育費は、あくまでも暫定的・補完的なものです。父母が協議によって養育費の額を定めた場合(父母の合意や調停の成立を含む)や審判が確定した場合には、その内容に従って養育費が支払われ、法定養育費は発生しません。
法定養育費の権利義務の法的性質は、「子の監護に要する費用の分担」と同じですが、これを補完する暫定的・補完的なものと解されています。
3 法定養育費の権利者・義務者
法定養育費を請求できる権利者は、「離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うもの」(監護者)です。支払う義務を負うのは、監護者とされている以外の者(非監護親)です。父母の双方が離婚の時から子をそれぞれ監護している場合には、それぞれ他方に対して法定養育費を請求することができます。
4 法定養育費の額
法定養育費の額は、未成年の子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して、子の数に応じて法務省令で定められます。
令和7年12月12日に公布された法務省令では、未成年の子1人につき1か月当たり2万円と定められています。この額はあくまで最低限度の額であり、実際の養育に必要な費用を下回ることが多いため、早期に個々の事情に応じた養育費の取決めを行うことが重要です。
5 法定養育費の先取特権
改正法の重要なポイントのひとつが、法定養育費に一般先取特権が付与されたことです。
これにより、公正証書・調停調書・審判書などの「債務名義」がなくても、民事執行法に基づく強制執行手続(差押え等)が可能となります。「債務名義」とは、差押という強制力を発動させるための法律的な効力のある文書のことです。従来は、養育費の未払いに対処するためには、まず公正証書の作成や調停・審判を経て「債務名義」を取得する必要があり、その手続的負担が養育費受取りの障壁となっていましたが、改正によってこの障壁が大幅に低減されました。
なお、先取特権の範囲は「各期に生ずる定期金(月額2万円)」に限られます。
6 法定養育費の終期・支払の拒絶・減免
法定養育費の支払義務は、以下の①〜③のいずれか早い日まで続きます。
①父母が協議により養育費の分担についての定めをした日(調停の成立・判決の確定等を含む)
②養育費の分担についての審判が確定した日
③子が成年(18歳)に達した日
他方で、義務者が支払能力を欠くためその支払をすることができないことを証明した場合には、その全部または一部の支払を拒むことができます。
また、家庭裁判所は、養育費についての定めがある調停・審判を行う場合に、義務者の支払能力を考慮して、法定養育費の支払義務の全部もしくは一部の免除(「減免」)または支払の猶予の他相当な処分を命じることができます。
7 実務上の留意点
法定養育費はあくまで暫定的・補完的な制度であることを理解した上で、離婚にあたっては早期に個々の事情に応じた適切な養育費の取決めを行うことが重要です。特に、法定養育費の月額(2万円)は最低限度の額であるため、実際の養育費としては不十分な場合がほとんどです。すみやかに調停・審判等で適切な養育費額を取り決め、確実な支払を確保することが、お子さんの生活の安定にとって不可欠です。
養育費の問題はお子さんの生活に直接影響する重要な事項です。養育費についてお悩みの方は、ぜひ早めに当事務所にご相談ください。
2026年4月12日