令和6年の民法改正では、婚姻費用・養育費・財産分与等の審理を迅速かつ適正に進めるための新しい制度として「情報開示命令」が導入されました。今回は、この制度の概要、活用場面、実務上の留意点についてご説明します。
1 情報開示命令が新設された背景
従来、家庭裁判所での婚姻費用・養育費・財産分与等の審理においては、当事者の収入・資産状況の把握が課題でした。これらの情報収集には調査嘱託や文書提出命令が利用されてきましたが、調査嘱託は被嘱託者に守秘義務があり回答が得られないケースがあること、文書提出命令は現状では存在しない文書の提出や所持していない文書の提出を求めることができないこと、発令のための要件審理に時間を要することなど、いずれも一定の限界がありました。
このような事態を踏まえ、情報開示命令が新設され、裁判所が当事者に対して直接情報の開示を命じることができるようになりました。
2 情報開示命令とは
情報開示命令とは、家庭裁判所(調停・審判)または裁判所(人事訴訟)が、当事者に対して、審理に必要な情報の開示を命じることができる制度です。
家庭裁判所が情報開示命令を発令できる事件類型は、①婚姻費用に係る調停・審判事件、②養育費に係る調停・審判事件、③扶養料に係る調停・審判事件、④財産分与に係る調停・審判事件、⑤離婚調停事件(養育費は財産分与の附帯処分としての申立てを含む)、⑥養育費等に関連する調停事件など、幅広い家事・人事事件が対象となります。
3 情報開示命令の申立てと発令の要件
情報開示命令は、申立てによりまたは職権で発令することができます。
申立てにより発令する場合には、①情報の具体的内容または種類(具体的な開示対象情報の特定)、②申立人が当該情報を必要とする理由(情報開示命令の必要性)を記載した書面を提出することが相当とされています。
発令の要件(「必要があると認めるとき」)については、①対象が審理・判断に資する情報であること及びその情報の重要性の程度を前提とした上で、②情報が存在する可能性、③開示義務者による入手可能性、④任意提出の可能性・他の収集手段や代替資料の有無、⑤情報開示命令の実効性などを考慮して判断されます。
4 開示対象となる情報の内容
婚姻費用・養育費・扶養料に係る事件では、収入資産が主として開示対象となります。具体的には、源泉徴収票・確定申告書・(非)課税証明書・年金振込通知書・給与(賞与)明細書、経営する会社の決算書類などです。これらに限られるわけではなく、収入状況の把握に必要な情報全般が対象となり得ます。
財産分与に係る事件では、夫婦共有財産の存否や具体的内容・数量に関する情報が主として対象となります。例えば、預貯金口座の通帳や取引履歴(証券会社の残高明細書)、不動産登記簿謄本、経営する会社の財産状況などが典型例です。
また、第三者(勤務先・金融機関等)が保有する情報についても、第三者に対する情報開示命令を発することができます。ただし、プライバシー保護等の必要がある場合には、マスキングした資料を提出することも許容されます。
5 情報開示命令に違反した場合の効果
情報開示命令に正当な理由なく違反した場合(情報を開示しない、または虚偽の情報を開示した場合)、10万円以下の過料が科されます。
さらに、情報開示命令への違反は、弁論または手続の全趣旨として裁判所の審理・判断に影響を与える可能性があります。例えば、相手方が情報を開示せず、その内容が不利な事実を隠蔽しているという推認につながる場合もあります。
6 従来の調査嘱託等との関係
情報開示命令は、調査嘱託や文書送付嘱託を廃止するものではなく、これらの手段と並行して活用することが可能です。事案に応じて、情報開示命令と調査嘱託等を使い分けることが、迅速かつ適正な情報収集につながります。
情報開示命令の制度・活用についてご不明な点がございましたら、当事務所にお気軽にご相談ください。
2026年4月11日