夫婦が別居すると、生活費(婚姻費用)をどうするかが重要な問題になります。
夫側から相談を受けると、「もう離婚するつもりだから生活費は払いたくない」とおっしゃる方も少なくありません。
しかし、法的には婚姻関係が継続している限り、相手の生活を保障する義務があるのです。
この義務を無視し、生活費を支払わないまま別居を続けると、「兵糧攻め」と見なされ、逆に離婚請求が認められなくなるという深刻なリスクが生じます。
今回は、東京家庭裁判所の判決(令和4年4月28日)をもとに、婚姻費用の不払いがどのように裁判所で評価されるか、そしてそれが離婚訴訟にどのような影響を与えるのかについてわかりやすく解説します。
この判決で注目されたのは、夫婦が別居していたにもかかわらず、夫が妻に対して婚姻費用をほとんど支払っておらず、妻の生活が実質的に困窮していたという状況でした。
夫側は、別居期間が長期に及んでおり、婚姻関係は既に破綻しているとして離婚を求めましたが、裁判所はこれを退けました。
その理由は、婚姻関係の破綻の主たる原因が夫自身の行動、すなわち婚姻費用を支払わずに妻を経済的に追い込んだことにあると判断されたからです。
判決では、婚姻費用の支払いを拒み、妻を生活困窮の状態に置いたことは、夫婦としての信義則に著しく反するものであり、それ自体が婚姻関係の破綻をもたらした原因であると判示されています。
つまり、離婚を求める本人が、婚姻関係を破綻させた張本人であると認定されたわけです。
このようなケースでは、たとえ夫婦の関係が実質的に破綻していたとしても、破綻の責任を一方的に負う当事者(=有責配偶者)からの離婚請求は、法的に認められにくくなります。
民法770条1項には、離婚が認められる事由が定められていますが、離婚事由がある場合でも、有責配偶者からの離婚請求は、判例上、厳しく制限されています。
これは、自己の責任で配偶者を精神的・経済的に追い詰めておきながら、自分だけが一方的に婚姻関係を解消するという不当な結果を防ぐためです。
婚姻費用の不払いによる「兵糧攻め」は、この有責配偶者の典型例として評価されるおそれがあります。
したがって、婚姻費用の支払い義務を怠ることは、法的にはリスクの高い行動と言えるのです。
別居中であっても、婚姻関係は法的に続いているため、生活費を支払う義務は残ります。
仮に相手と感情的に対立していたとしても、「生活費を断って困らせれば早く離婚できる」といった考えは、むしろ逆効果になりかねません。
支払いが経済的に困難である場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てて、妥当な金額に調整してもらうことができます。
また、調停を通じて合意に至れば、将来のトラブル回避にもつながります。
もっとも、もし婚姻費用の支払いを怠ってしまった場合には、相手から履行勧告や強制執行を申し立てられる可能性もあります。
その場合には、給与や預金が差し押さえられるなどの法的リスクも発生します。
このように、婚姻費用の不払いは、「兵糧攻め」と評価されてしまう可能性があり、それが自分の離婚請求を妨げる結果につながることがあります。
離婚を有利に進めたいと考えている方ほど、こうした基本的な法的義務を軽視するべきではありません。
円満かつスムーズな離婚を実現するためには、別居後も冷静に、そして誠実に対応することが不可欠です。
2025年7月29日
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