1 はじめに
離婚に伴う年金分割は、老後の所得保障に関する大事な制度です。
夫(または妻)が給与天引きで支払ってきた厚生年金の支払い実績を、どのように按分するかが問題となります。
長期間の別居を経て離婚に至った場合、年金分割の割合をどのように定めるかという点が問題になることがあります。財産分与では、別居後の資産形成は経済的協力関係にないため分与の対象となりません。そのため、年金分割でも、別居後の支払いについて分割の対象となるのは不公平なのではないかという主張がされるのです。
例えば、婚姻期間は数十年に及ぶ一方で、実際に同居していたのは数年程度にとどまるケースでは、果たして「半分ずつ」が公平といえるのか、疑問を呈する当事者も少なくありません。
2 裁判例
この点、判例は一貫して、年金分割の按分割合は原則として0.5(夫婦同等)とすべきであり、特段の事情がない限りこれを変更すべきではないとしています。
平成19年5月31日松山家裁決定は、「対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は、特別の事情がない限り、互いに同等と考えるべきである」として、按分割合を0.5としました。
平成19年6月26日札幌高裁決定も、別居や家庭内別居の事実を主張する夫の抗告を退け、「婚姻期間中の保険料納付や掛金の払い込みに対する寄与の程度は、特段の事情がない限り夫婦同等とみるべき」と判示しています。
さらに、令和元年8月21日大阪高裁決定では、婚姻期間44年中、同居はわずか9年にすぎない事案において、原審が0.35とした按分割合を0.5に変更しました。高裁は「夫婦の扶助義務は別居しても基本的に変わらず、老後の所得保障も同等に形成されるべき」として、長期別居そのものは「特段の事情」には当たらないと述べました。
3 「特段の事情」とは
それでは、裁判所が例外的に0.5以外の割合を認める「特段の事情」とは、どのような場合を指すのでしょうか。判例は抽象的にしか触れていませんが、考えられる事情を例示してみます。
① 一方の一方的な責任による長期別居
長期別居であっても、責任の所在が一方に偏っている場合には、その責任を考慮して寄与の不均衡が認められる余地があります。例えば、DVなどによって実質的に婚姻関係を破壊した場合です。
② 保険料納付に関する特別な寄与または不寄与
婚姻期間中に一方が全く就労せず、かつ他方の保険料納付を妨げるような態度をとった場合や、逆に相手の保険料負担を肩代わりしたような場合などは、均等按分が不当と評価され得ます。
③夫婦間扶助義務を著しく否定する事情
婚姻生活中に扶助義務が事実上機能せず、一方の故意または重大な過失により、他方が長年にわたり全く扶養を受けられなかった場合も、例外的に考慮対象となる可能性があります。
4 まとめ
実際の調停・審判の場では、当事者の一方が「別居が長かったのだから半分は不公平だ」と主張することが少なくありません。しかし判例の流れを見る限り、単なる長期別居は「特段の事情」には当たらず、按分割合を0.5から修正することは限定的です。
したがって、相手方が不公平を理由に0.5以下を主張しても、それが認められる可能性は高くありません。むしろ、裁判所は原則どおり、夫婦同等の寄与を前提として判断する可能性が高いです。
離婚後の年金分割における按分割合は、特段の事情がない限り0.5が原則です。たとえ、婚姻期間の大半を別居して過ごしていても、それだけを理由に割合を下げることはできません。
ただし、DV、扶養義務違反、極端な不寄与など、夫婦の一方に重大な責任が認められる場合には例外的に修正が考慮される余地があります。
実務では、この「特段の事情」に該当するか否かをめぐり、当事者双方の主張が対立することがあります。したがって、離婚後の生活設計を見据える上でも、早い段階で法律の専門家に相談し、自らの事情が「特段の事情」に当たるかを検討することが肝要です。
2025年8月19日
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