離婚時の財産分与は、夫婦が協力して築き上げた共有財産を公平に分配するものです。しかし、夫婦の一方が婚姻前から所有していた財産や、婚姻中に贈与・相続によって取得した財産など、夫婦の協力とは無関係に得た財産は「特有財産」とされ、原則として財産分与の対象から除外されます。
この特有財産をめぐる問題は、財産分与においてしばしば紛争の火種となります。本コラムでは、離婚事件における特有財産の主張と立証をどのように進めるべきか、そのポイントを解説します。
1. 特有財産とは何か
財産分与における特有財産とは、その財産を取得するのに名義人ではない配偶者の寄与が認められない財産のことを指します。
特有財産の典型的な例は以下の通りです。
・婚姻前から所有していた財産。
・贈与や相続によって取得した財産。
・一方の専有品と言える衣類や宝飾品など。
・夫婦間で贈与された財産。
・親が保険料を支払っていた生命保険や、特有財産を原資に保険料を全期前納した生命保険。
・婚姻前の労働の対価たる部分に相当する退職金。
・婚姻前から所有していた株式や、贈与・相続した株式。
2. 特有財産の証明責任
ある財産が特有財産であることの証明責任は、その特有財産であることを主張する側にあります。立証ができない場合、その財産は夫婦共有財産として財産分与の対象となってしまいます。
また、特有財産の立証は、個々の財産ごとに行う必要があります。つまり、婚姻時の財産総額を基準時の財産総額から引くといった包括的な方法では、特有財産性として認められません。また、特有財産が別の財産に形を変えた場合(例:相続した預貯金で車を購入する等)も、その関連性を明確に立証する必要があります。
当事者が考えているよりも、特有財産の立証のハードルは高いです。
3. 財産の種別ごとの留意点
(1)不動産
不動産の購入資金の一部に、婚姻前から有していた貯蓄や親からの贈与金を充てた場合、その出資の割合に応じた部分は特有財産として財産分与の対象から除外されます。
これを立証するためには、不動産登記事項証明書、不動産売買契約書、頭金の領収書、預貯金の取引履歴、相続税の申告書などの証拠により、親からの贈与金が不動産の購入に充てられたことがわかるように紐付けすることが必要です。
(2)預貯金
婚姻前からあった預貯金や、贈与・相続で得た金銭を原資とする預貯金は特有財産となります。しかし、特有財産として認められるためには、基準日(原則として別居時)にもその預貯金が残存していることを立証する必要があります。
普通預金の場合、生活に密接に関わるため頻繁に入出金が行われ、婚姻前の残高と婚姻後の収入等が混ざってしまい、特有財産の立証が難しくなります。そのため、実務上、基準時の残高から婚姻時の残高を単純に差し引くという主張は誤りとされています。例外的に、婚姻時から基準時まで預金にほとんど動きがない場合や、婚姻時から基準日までの期間が極めて短い場合には、特有財産性が認められる可能性があります。
他方、定期預金や定期積金は、普通預金と異なり動きが少ないため、特有財産性の立証が比較的容易です。
(3)生命保険
婚姻前から加入している生命保険のうち、婚姻前に支払った保険料に対応する部分は特有財産とされます。この部分は、婚姻時の解約返戻金相当額を証明する資料をもって立証します。
(4)退職金
退職金のうち、婚姻前の勤続期間に対応する部分は特有財産となります。
(5)株式
婚姻前から有していた株式や、贈与・相続で取得した株式は特有財産です。非上場株式の場合は株主名簿などで、上場株式の場合は証券会社の取引履歴で立証を行います。しかし、頻繁に売買を繰り返している場合、特有財産部分と婚姻後の追加入金が混ざってしまい、特有財産部分を判別するのが困難になることが多いです。
5. まとめ
特有財産の主張・立証は、個々の財産ごとに、お金の流れを客観的な証拠で裏付けることが必要です。特に普通預金や頻繁に売買される株式など、財産が混ざり合ってしまうケースでは、特有財産として認められるのが困難な場合もあります。
財産分与における特有財産の取り扱いは、専門的な知識と経験を要します。ご自身の財産が特有財産に該当するかどうか、また、その立証をどう進めるべきかお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
2025年9月13日
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