令和6年の民法改正により、離婚後の養育費に関する制度が大きく見直され、2026年4月1日から「法定養育費」という新しい制度が始まりました。法定養育費とは、離婚の際に養育費の取決めをしないまま離婚した場合でも、子どもを監護する親が他方の親に対して最低限度の養育費を請求できるようにする制度です。今回は、制度が創設された背景、対象となるケース、金額、いつまで請求できるか、先取特権による強制執行、実務上の留意点について、名古屋で離婚事件を数多く取り扱う弁護士がご説明します。
従来、離婚後の養育費については、父母が協議で定めるか、協議が調わない場合は家庭裁判所の調停・審判で定めることとされていました。しかし、協議離婚の場合に養育費の取決めをしないまま離婚するケースが少なくなく、その結果として養育費が支払われないという問題が深刻化していました。
この問題を解消するため、改正法では、父母が協議上の離婚をした場合に、養育費の分担についての取決めをすることなく離婚したときは、離婚のときから当然に最低限度の養育費(法定養育費)が発生する制度が創設されました。
法定養育費の制度は、2026年(令和8年)4月1日から施行されています。この制度が適用されるのは、施行日である2026年4月1日以降に離婚したケースに限られます。2026年3月31日以前に離婚した場合には、法定養育費は発生しません。この場合に養育費の支払を求めるには、これまでどおり父母の協議や家庭裁判所の調停・審判により、養育費の額を取り決める必要があります。
法定養育費は、あくまでも暫定的・補充的なものです。父母が協議によって養育費の額を定めた場合(合意や調停の成立を含みます)や、養育費の審判が確定した場合には、その内容に従って養育費が支払われることになり、法定養育費は発生しなくなります。
法定養育費の権利義務の法的性質は、通常の養育費(子の監護に要する費用の分担)と同じものと解されており、正式な取決めがされるまでの間を補う位置づけの制度です。
民法766条の3は、法定養育費を請求できる権利者を「離婚のときから引き続きその子の監護を主として行う父母の一方」と定めています。つまり、請求できるのは、離婚後も継続してその子を主に監護している親であり、支払う義務を負うのは、それ以外の親(非監護親)です。
法定養育費の額は、未成年の子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して、子の数に応じて法務省令で定められます。この省令により、未成年の子1人につき1か月あたり2万円と定められました(子どもが2人以上いる場合は、1人あたりの金額を人数分単純に合算した額になります)。
この2万円という金額は、あくまで最低限度の額です。実際に子どもの養育に必要な費用を大きく下回ることがほとんどであるため、法定養育費だけで十分と考えず、早期に個々の事情に応じた適切な養育費の取決めを行うことが重要です。養育費の算定表の考え方や相場感については、当事務所の養育費の解説ページもあわせてご覧ください。
法定養育費は、離婚の日から発生します。支払義務を負う親は、毎月末に、その月の分の法定養育費を支払う必要があります。
法定養育費の支払義務は、次の①から③のいずれか早い日まで続きます。
① 父母が協議により養育費の分担について定めた日(調停の成立を含みます)
② 養育費の分担についての審判が確定した日
③ 子が成年(18歳)に達した日
法定養育費は、正式な養育費の取決めがされるまでの暫定的な制度にすぎません。父母の協議や家庭裁判所の調停・審判によって養育費の額が正式に定まれば(このように取り決められた養育費は「形成養育費」と呼ばれます)、その時点で法定養育費は発生しなくなり、以後は取り決めた額の養育費が適用されます。
また、いったん養育費の額を取り決めた後であっても、収入の変化や再婚など事情の変更があった場合には、金額の見直しができることがあります。詳しくは、養育費の金額を変更するにはをご覧ください。
改正法により、養育費債権には「先取特権」と呼ばれる優先的な権利が認められるようになりました。裁判所の運用では、養育費に基づく差押えの手続きは、(1)公正証書や調停調書などの債務名義に基づく通常の強制執行、(2)父母の合意や調停調書等で取り決めた養育費(形成養育費)について、先取特権に基づき担保権を実行するもの、(3)法定養育費について、先取特権に基づき担保権を実行するもの、の3種類に整理されています。
法定養育費について担保権を実行する場合、通常の強制執行のような「債務名義」や、養育費を取り決めた際の文書は必要ありません。その代わりに、法定養育費が発生していることを証明するための資料として、債権者及び子の戸籍謄本や、請求者が離婚のときから引き続きその子を主に監護していることを証明する住民票の写しなどを提出する必要があります。
先取特権が付与される養育費の範囲は、子1人あたり月額8万円が上限です。法定養育費(月額2万円)はこの上限の範囲内にすべて含まれるため、全額について先取特権による保護を受けられます。
一方、形成養育費として月額8万円を超える額を取り決めている場合、その超過部分には先取特権が及びません。この超過部分について強制執行を行うには、公正証書や調停調書、審判書などの「債務名義」が必要になります(先取特権による担保権実行では対応できません)。なお、改正法の施行前(2026年3月31日以前)に養育費の取決めをしていた場合には、施行後(2026年4月1日以降)に発生する養育費についてのみ先取特権が付与される点にも注意が必要です。
実際に養育費が支払われない場合の具体的な対応方法(履行勧告、直接強制、間接強制など)については、養育費が振り込まれなくなったときの対応方法でも詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
義務者が、(1)支払能力を欠くためにその支払をすることができないこと、または(2)その支払をすることによって自らの生活が著しく窮迫すること(例えば生活保護を受給している場合など)を証明した場合には、法定養育費の全部または一部の支払を拒むことができます。
また、家庭裁判所は、養育費についての定めをする調停・審判を行う際に、義務者の支払能力を考慮して、法定養育費の支払義務の全部もしくは一部の免除(減免)または支払の猶予その他相当な処分を命じることができます。
法定養育費は、離婚時に特別な申立てをしなくても、法律上当然に発生します。もっとも、実際に相手に支払を求める際には、金額や振込先を明確にした書面で請求の意思を示しておくと、後日の証拠としても安心です。
相手が任意に支払わない場合は、前述のとおり、法定養育費に基づく担保権の実行(差押え)を申し立てることができます。この場合、通常の強制執行と異なり、養育費を取り決めた際の文書は不要ですが、離婚の事実や、請求者が離婚のときから引き続きその子を主に監護していることを証明する戸籍謄本・住民票などの資料が必要になります。また、家庭裁判所に養育費の取決めを求める調停を申し立てることで、正式な養育費の額を取り決めることもできます。調停手続きでは、家庭裁判所が当事者に収入情報の開示を命じることができる制度も整備されており、養育費の算定がスムーズに進むようになっています。
差し押さえるべき相手の財産(勤務先や預金口座など)が分からない場合には、地方裁判所に財産開示手続を申し立てることもできます。養育費等については、財産開示の申立てと同時に、判明した給与債権への差押命令の申立てをしたものとみなす「ワンストップ執行手続」も整備されています。
具体的な請求の進め方や必要な書類は個別の事情によって異なりますので、実際に請求をご検討の場合は、早めに弁護士にご相談ください。
いいえ。法定養育費の制度は、改正法が施行された2026年4月1日以降に離婚したケースにのみ適用されます。施行前に離婚した場合には、これまでどおり父母の協議や家庭裁判所の調停・審判によって養育費の額を取り決める必要があります。
法定養育費そのものは、離婚のときに特別な手続きをしなくても法律上当然に発生します。ただし、相手が支払わない場合に担保権の実行(差押え)を行うには、離婚の事実や、請求者が離婚のときから引き続きその子を主に監護していることを証明する戸籍謄本・住民票などの資料が必要になります(通常の養育費の強制執行で必要となる、養育費を取り決めた際の文書とは異なります)。手続きの詳細は事案によって異なりますので、弁護士にご相談されることをおすすめします。
月額2万円という金額は、あくまで最低限度の額として定められたものであり、実際の養育費として十分でない場合がほとんどです。早期に、双方の収入や子どもの人数などの実情に応じた適切な養育費を、協議や調停・審判で取り決めることをおすすめします。当事務所の養育費無料算定サービスもご利用いただけますので、お気軽にお問い合わせください。
法定養育費は、離婚時に養育費の取決めをしないまま離婚してしまった場合のセーフティネットとして重要な制度です。しかし、月額2万円はあくまで最低限度の金額であり、お子さんの健やかな成長を支えるためには、早期に個々の事情に応じた適切な養育費を取り決めることが何より大切です。
養育費の取決めや、養育費が支払われないことでお困りの方は、お一人で悩まず、お早めに当事務所までご相談ください。
2026年9月18日
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<よくあるご相談>
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