ある日突然、配偶者が子どもを連れて実家に帰ってしまった、別居の話し合いの最中に子どもを連れて出て行かれてしまった――こうした状況に直面すると、多くの方が「今すぐ子どもを取り戻したい」という強い気持ちに駆られます。しかし、感情のままに動いてしまうと、かえって事態をこじらせ、その後の手続でも不利になりかねません。このコラムでは、離婚前・別居中に子どもの引渡しを求める場合に利用できる法的手段の全体像を整理します。
配偶者が子どもを連れて行った先に押しかけて、力ずくで子どもを連れ戻す、あるいは保育園や学校からこっそり子どもを連れ去るといった対応は、絶対に避けてください。たとえ実の親であっても、他方の親の監護のもとにある子どもを有形力を用いて連れ去る行為は、事案によっては刑事事件に発展することもあります。
また、実力行使によって一度子どもを取り戻せたとしても、その後の調停・審判では、どちらが子どもの監護者としてふさわしいかが子どもの利益の観点から改めて審理されます。強引な方法で子どもを確保したという事実は、監護者としての適格性の判断でむしろ不利に働くこともあります。まずは落ち着いて、これから説明する法的手続の利用を検討してください。
子どもの引渡しを求める方法には、主に次のようなものがあります。
・子の監護者指定・子の引渡しの調停――家庭裁判所で、話し合いにより監護者や引渡しについて取り決める手続です。
・子の監護者指定・子の引渡しの審判――話し合いがまとまらない場合や、話し合いになじまない場合に、裁判官が判断する手続です。
・審判前の保全処分――子どもの心身に危険が及ぶおそれがある等、緊急性が高い場合に、本案の結論を待たずに暫定的な処置を求める手続です。
・人身保護請求――家庭裁判所の手続によったのでは救済が間に合わないような、極めて限定的な例外的場面で利用される手続です。
それぞれの手続の詳しい流れは、コラム84「監護者指定・子の引渡しの調停・審判とは?」で解説していますので、そちらをご覧ください。人身保護請求は特殊な手続であるため、コラム95「人身保護請求とは?」で別途詳しく説明しています。
多くのケースでは、まず子の監護者指定・子の引渡しの調停又は審判(コラム84)を申し立てることになります。話し合いによる解決の可能性があれば調停から、緊急性が高く話し合いの時間的余裕がない場合は審判の申立てから進めることもあります。
子どもの心身に危険が及ぶおそれがあるなど、本案の結論が出るまで待っていては子どもの利益が損なわれてしまうような緊急性の高いケースでは、調停又は審判の申立てとあわせて、審判前の保全処分を申し立てることも検討します。
これらに対し、人身保護請求は、家庭裁判所の手続を経ていたのでは救済が間に合わないような極めて限定的な場合に用いられる例外的な手続であり、通常のケースでいきなり選択する手続ではありません。詳しい要件はコラム95をご確認ください。
子の監護者指定・子の引渡しの調停、審判、審判前の保全処分は、いずれも家庭裁判所に申し立てますが、家庭裁判所のうちどこが管轄するかは手続によって異なります。調停を申し立てる場合は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、又は当事者が合意で定める家庭裁判所が管轄します。これに対し、調停を経ずに審判を直接申し立てる場合は、子の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄します。審判前の保全処分は、本案となる調停又は審判が申し立てられている家庭裁判所に申し立てます。人身保護請求は家庭裁判所ではなく、高等裁判所又は地方裁判所に申し立てる手続です。手続の種類によって管轄する裁判所が異なりますので、混同しないように注意してください。
「まだ離婚していないから、子どもの引渡しを求める手続は利用できないのでは」と心配される方もいますが、そのようなことはありません。婚姻中で父母がともに親権者である段階でも、別居によって現実にどちらが子どもを監護するかについて意見が対立している場合には、家庭裁判所に子の監護者指定や子の引渡しの調停・審判を申し立てることができます。
2026年4月に施行された改正民法により、離婚後の親権のあり方(共同親権・単独親権)に関するルールが変わりましたが、これは離婚後の親権者の定め方に関する改正です。離婚前の婚姻中の父母間で子どもの監護をどちらが担うかという問題は、従来どおり、子の監護者指定・子の引渡しの手続で対応することになります。
調停や審判では、どちらが監護者としてふさわしいかを、子どもの利益の観点からさまざまな事情を考慮して判断します。具体的にどのような事情が重視されるかについては、コラム107「監護者指定の判断基準」で詳しく解説しています。
配偶者に子どもを連れて別居された場合、まず大切なのは、自力で連れ戻そうとせず、法的手続を通じて解決を図ることです。どの手続を選ぶべきかは、子どもの年齢や置かれている状況、緊急性の有無によって異なります。当事務所では、個別の状況をお伺いしたうえで、最適な手続をご案内しています。お一人で悩まず、早めにご相談ください。
令和8年9月30日
離婚に関するご相談ならどのような相談でもお気軽にお問い合わせください。
<よくあるご相談>
依頼者にとって便利な場所に、ということで、交通便利な金山に事務所を設立しました。
老若男女問わず、愛知県全域の皆様から愛される事務所を目指しております。お子様連れの方やご年配の方も安心してご来所ください。