配偶者との別居後、子どもをどちらが監護するかについて話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に「子の監護者指定」と「子の引渡し」の調停・審判を申し立てることができます。子どもを連れて別居された場合に利用できる手続の全体像はコラム1「子どもを連れて別居されたら?」で解説していますので、まずはそちらをご覧ください。このコラムでは、実際に家庭裁判所の手続を利用する場合に、どのように進んでいくのかを具体的にご説明します。
「監護者指定」は、父母のどちらが子どもを監護するのにふさわしいかを決める手続です。「子の引渡し」は、実際に子どもを相手方から引き渡してもらう手続です。別居後に相手方のもとに子どもがいる状態から自分のもとに子どもを取り戻したいという場合には、この2つをあわせて申し立てるのが通常です。
子の監護者指定・子の引渡しの調停又は審判は、次のとおり申し立てます。
・申立人:父又は母
・申立先:調停を申し立てる場合は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、又は当事者が合意で定める家庭裁判所です。調停を経ずに審判を直接申し立てる場合は、子の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄します。
調停で話し合いがまとまれば、その内容で解決します。合意に至らない場合は、審判手続に移行し、裁判官が判断します。事案によっては、調停を経ずに、最初から審判を申し立てることもあります。
監護者指定・子の引渡しの手続では、家庭裁判所調査官が、父母それぞれとの面接や、子どもとの面接、家庭訪問等を通じて、これまでの監護状況、現在の生活環境、子どもの意向などを調査することが一般的です。調査官の調査結果は、裁判官が判断をするうえで重要な資料になります。調査には、2,3ヶ月程度の期間を要します。
どのような事情が重視されるのかについては、コラム107「監護者指定の判断基準」で詳しく解説しています。
子の監護に関する処分の調停又は審判の申立てをした場合において、子どもその他の利害関係人に急迫の危険が及ぶおそれがあり、本案の結論を待っていては手遅れになりかねないときは、あわせて審判前の保全処分を申し立てることができます。保全処分により、本案の審判が確定するまでの間、暫定的に子どもの監護者を定めたり、子どもの引渡しを命じたりすることが可能になります。なお、子の監護に関する処分について仮の地位を定める保全処分を命じる場合、家庭裁判所は原則として15歳以上の子どもの陳述を聴かなければならないとされています。保全処分の申立先は、本案となる調停又は審判を申し立てている家庭裁判所です。
ただし、保全処分はあくまで緊急性が高い場合の例外的な措置であり、通常の調停・審判の手続によっては間に合わないだけの具体的な危険性が疎明できなければ認められません。緊急性が高いと思われる場合は、早めに弁護士にご相談ください。
調停・審判で監護者や引渡しが決まったにもかかわらず、相手方が任意に子どもを引き渡さない場合は、強制執行を申し立てることができます。子の引渡しの強制執行には、執行官が直接子どもの引渡しを実施する方法(直接的な強制執行)と、間接強制(引き渡さなければ一定の金銭の支払を命じる方法で心理的に働きかける方法)があります。法律上、直接的な強制執行の申立てができるのは、①間接強制の決定が確定してから2週間を経過したとき、②間接強制を実施しても債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき、③子どもに急迫の危険があり直ちに強制執行をする必要があるとき、のいずれかに該当する場合です。つまり、子どもの安全に関わる緊急性が高い場合は、法律上、間接強制を経なくても直接的な強制執行を申し立てることができます。事案の緊急性によってどちらから申し立てるべきかは異なりますので、具体的な進め方は弁護士にご相談ください。ただし、子どもは物ではありませんので、子ども自身が拒否する場合や、相手方が力ずくで抵抗するような場合には、強制執行によっても実現できないことがあります。
2026年(令和8年)4月1日に施行された改正民法では、離婚後に父母双方を親権者とする共同親権も選べるようになりましたが、共同親権のもとでも、実際に子どもと同居して監護する者を「監護者」として指定したり、監護の内容を父母間で分担する「監護の分掌」を定めたりすることができます。監護者や監護の分掌の定め方については、コラム119「監護者・監護の分掌とは?」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
子どもを連れ去られた場合の救済手段として「人身保護請求」という制度もありますが、これは、この調停・審判・保全処分の手続によっては救済が間に合わないような、極めて限定的な例外的場面で利用される特殊な手続です。通常は、まずこのコラムで説明した調停・審判・保全処分の利用を検討します。人身保護請求の詳しい要件はコラム95「人身保護請求とは?」をご覧ください。
話し合いによる解決の可能性がある場合は調停から始めることが多いですが、緊急性が高い場合や、相手方との話し合いが著しく困難な場合は、審判の申立てから進めることもあります。個別の事情によって適切な進め方が異なりますので、弁護士にご相談ください。
監護者指定・子の引渡しの調停・審判は、申立ての準備から調査官調査、審判、場合によっては強制執行まで、一定の時間と専門的な対応を要する手続です。お子さんとの生活を一日も早く取り戻すためにも、早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
令和8年9月30日
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