配偶者やそのご家族による子どもへの虐待が疑われる場合、「このまま子どもを任せておいて大丈夫か」「親権や監護はどうなるのか」という不安を抱える方は少なくありません。虐待は、複数の異なる制度に関わる問題です。このコラムでは、緊急の保護、離婚時の共同親権・単独親権の判断、婚姻中の別居時・離婚後の監護者指定、親権喪失・親権停止という制度をそれぞれ整理してご説明します。
虐待が疑われる場合に問題となる制度は、大きく分けて次の4つです。それぞれ制度の趣旨や手続、問題になる場面が異なりますので、混同しないことが重要です。
・緊急に子どもの安全を守るための児童相談所による対応(一時保護等)
・離婚の際に、親権を父母双方(共同親権)とするか一方(単独親権)とするかを決める手続
・婚姻中の別居時や離婚後に、実際にどちらが子どもを監護するかを決める監護者指定の手続、及びいったん定めた親権者を変更する手続(親権者変更)
・虐待等を理由に、親権そのものを制限する親権喪失・親権停止の審判
子どもの生命・身体に関わる差し迫った危険がある場合は、まず児童相談所へ通告・相談することが優先されます。児童虐待の防止等に関する法律は、児童虐待を、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト(監護を著しく怠ること)、心理的虐待(著しい暴言、著しく拒絶的な対応、子どもが同居する家庭における配偶者に対するDVを含みます)の4類型に分けて定義しています。児童相談所は、必要と判断した場合、子どもを一時的に保護する「一時保護」を行うことができます(原則として2か月以内とされています)。2025年(令和7年)6月1日からは、親権者の同意がある場合等の一定の例外を除き、一時保護の開始から7日以内(又は事前)に、児童相談所長が裁判官に「一時保護状」を請求し、裁判官の審査を受けなければならない制度が導入されています。緊急性が高いと感じる場合は、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」にご相談ください。
2026年(令和8年)4月1日に施行された改正民法により、離婚後の親権は、父母双方(共同親権)とすることも、一方のみ(単独親権)とすることも選べるようになりました。もっとも、次のいずれかに該当すると認められるときは、家庭裁判所は必ず単独親権の定めをしなければならないとされています。
・父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき(虐待のおそれがあると認められるとき)
・父母の一方が他の一方から暴力等を受けるおそれの有無、協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき(DVのおそれその他の事情による場合)
虐待のおそれがあると認められる場合には、共同親権ではなく、単独親権の定めがされることになります。共同親権・単独親権の制度全般についてはコラム118「離婚後の共同親権」をご覧ください。
ここで注意していただきたいのは、共同親権・単独親権の振り分けは、あくまで離婚の際に問題となるという点です。まだ離婚しておらず、婚姻中に別居しているだけの段階では、父母は法律上ともに親権者のままであり、この段階で「共同親権にするか単独親権にするか」を選ぶ場面ではありません。婚姻中の別居時に虐待が疑われる場合に問題となるのは、実際にどちらが子どもを監護するかを決める監護者指定の手続です。監護者指定は、婚姻中の別居時だけでなく、離婚後(共同親権・単独親権のいずれの場合も)にも問題になり得ます。監護者指定では、これまでの監護状況や子の利益の観点から総合的に判断されるため、虐待の有無やその内容は重要な考慮要素となります。監護者指定で考慮される事情全般については、コラム107「監護者指定の判断基準」をご覧ください。監護者・監護の分掌の制度についてはコラム119「監護者・監護の分掌とは?」で詳しく解説しています。
虐待を理由に親権そのものを制限する制度として、親権喪失と親権停止があります。これらは、離婚しているかどうかにかかわらず利用できる制度ですが、いずれも家庭裁判所の審判が必要であり、虐待の事実があるからといって自動的に親権を失うわけではない点にご注意ください。
・親権喪失――父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるとき、その他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときに、家庭裁判所が親権喪失の審判をすることができる制度です。ただし、2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、親権喪失の審判をすることはできません。
・親権停止――父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときに、家庭裁判所が親権停止の審判をすることができる制度です。停止の期間は、原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間や子の心身の状態等を考慮して、2年を超えない範囲で定められます。親権喪失に比べて、より軽度・一時的な場合を想定した制度です。
・管理権喪失――父又は母による財産管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときに、財産管理権のみを喪失させる制度です。
これらの審判は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、家庭裁判所が行います。保護者への勧告に従わず、親権を行わせることが著しく子の福祉を害する場合には、児童相談所長が、必要に応じて親権喪失等の審判の請求を行うものとしています。
共同親権とするか単独親権とするかは、離婚時に「これから親権をどのように行使していくか」を決める手続です。これに対し、親権喪失・親権停止は、既に親権を持っている父又は母について、その親権行使が虐待等により著しく不適当であることを理由に、家庭裁判所が親権そのものを制限する手続です。両者は異なる制度であり、例えば、離婚時に単独親権とされた場合でも、その後、親権者による虐待が判明すれば、親権喪失・親権停止の審判を別途申し立てることになります。また、離婚後の親権者変更についても、虐待やDVのおそれがあるとき、父母が共同して親権を行うことが困難であるときは、共同親権への変更は認められないとされています。
DV(配偶者に対する暴力)と、子どもへの虐待は、法律上は区別される問題です。もっとも、児童虐待の防止等に関する法律は、子どもが同居する家庭における配偶者に対するDVも、子どもへの心理的虐待の一類型として位置づけています。また、DVのおそれがあることを、単独親権としなければならない理由の一つとされています。DVと子どもへの虐待が同時に問題になっているケースも少なくありませんので、DVにお悩みの場合も、早めに弁護士や相談窓口にご相談ください。
虐待が疑われる場合、緊急の保護、離婚時の共同親権・単独親権の判断、婚姻中の別居時・離婚後の監護者指定、親権喪失・親権停止という、異なる制度が関わってきます。どの制度をどのように利用すべきかは、お子さんの状況や緊急性によって異なりますので、一人で抱え込まず、早めに弁護士にご相談ください。
令和8年9月28日
離婚に関するご相談ならどのような相談でもお気軽にお問い合わせください。
<よくあるご相談>
依頼者にとって便利な場所に、ということで、交通便利な金山に事務所を設立しました。
老若男女問わず、愛知県全域の皆様から愛される事務所を目指しております。お子様連れの方やご年配の方も安心してご来所ください。